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令和5年度地理的分野支部実践の分析
入力日
2024年1月23日
内容
佐賀県中社研
令和5年度地理的分野支部実践の分析
地理的分野部長 川原 峻
1 はじめに
今年度は,九州中学校社会科教育研究大会が宮﨑県で開催され,授業者や研究発表者の創意工夫あふれる実践が紹介された。単元の構想図や問いの設定,ICT機器の活用など参考にすべき点が多くあった。佐賀県も令和9年度に全国大会を控えており,本県のこれまでの実践的研究のまとめを行い,特質と課題を明確にしたうえで,次年度以降の実践に反映させていく必要がある。そこで,地理的分野では,今年度の研究方針に基づいて,「パフォーマンス課題の設定」,「学びの個別最適化」,「ラーニングパートナー(以下LP)の活用」,「学習評価」の観点から,今年度の実践を振り返っていきたい。
2 今年度の実践と分析
(1) パフォーマンス課題の設定について
パフォーマンス課題の設定について,三養基支部では,九州地方,中国・四国地方,近畿地方の学習後に,「魅力ある旅行先を決めよう」という課題を設定し,それぞれの地域の特色を生かした旅行プランをもとに,旅行の行き先を決める実践が紹介された。鳥栖・基山支部では,「『大阪府は近畿地方のどの府県と合併すべきか』という問いに対する各グループの発表を聞き,最適な合併案を作ろう」という課題を設定し,近畿地方の府県の地域的特色を踏まえた意見文を作成する実践が紹介された。佐賀支部では,中部地方・東北地方の単元のまとめにおいて,「南海トラフ地震に備え,家族を守る防災・減災3カ条を考えよう」という課題を設定し,単元で学んだ内容や扱った資料をもとに説明文を作成する実践が紹介された。
各支部の研究員の意見として,パフォーマンス課題の設定が難しいという意見が出された。今後も各支部で作成されたパフォーマンス課題の蓄積とその共有の必要性を感じた。
また,子どもが現実社会の諸課題に目を向け,望ましい社会の在り方について自己の主張を形成することができるようにするためには,問いの設定や題材の選択が重要になる。扱う題材については可能な限り,現実の社会において解決が望まれている課題を扱い,課題の要因や背景、対立している考え方を理解したうえで,実現の可能性までを含めて検討できる単元を構成することが望ましい。
(2) 学びの個別最適化について
学びの個別最適化について,県中社研では,「AI(人工知能)やデータ,級友も含めたLPなどから最善と考える相手と対話する手段を選択し,協働できるように子どもたちに『学び』の裁量が与えられること」と定義している[i]。
佐賀支部では,学びの個別最適化に焦点を当て,『学び合い』を軸として研究がすすめられ,地理・歴史・公民の全分野において授業研究会を実施した。実際に授業を参観することで,『学び合い』の授業に挑戦する実践者を増やしていけるよう支部内の連携を強化している。三養基支部においても,『学び合い』の考え方にもとづいた授業実践が行われた。各支部の研究員からは,課題として学校によって収拾がつかなくなるなど,『学び合い』の活動がうまく実施できず,グループ活動が精いっぱいという声も聞かれた。
今後も教師と子どもの関わりを通して,問題を解決するために適した学習方法を決定していくことが重要である。今後の検討課題として,授業過程の中で,いかに問題を把握させたり,社会的見方・考え方を働かせて問いを追求させたりできるのか,その方略を検討できるワークシートや単元のデザインシートの在り方についても検討していきたい。
今後の研究大会を見据え,授業研究に重点をおくことは大前提としながらも,ICT機器の活用についても検討する必要があると考えられる。他の県で先進的に活用されているからという理由ではなく,活用する意義があるかないかも含めて,社会科教育の実践においてICT機器を活用した実践を増やし,その方法について検討していくことが,今後の時代に対応した授業実践を考えていくためには必要ではないかと感じた。
(3) LPの活用について
今回,3つの支部においてはLPの活用の観点から実施された実践がなされなかった。今後も意識しなければならないことは,社会科授業においてLPを活用する意義をいかに示していくかである。LPを活用することを目的とするのではなく,より社会とのつながりを感じられるような活用の方法を探りたい。現実から離れた学びではなく,現実と教室とをつなぐ学びの場として展開するためにもLPの活用は大きな意義となるだろう。実践者の負担を減らすためにも,テレビ電話やメール等を利用するなどICT機器を活用した実践も視野に入れながら,その在り方について模索していきたい。
(4) 学習評価について
3つの支部ではパフォーマンス課題を設定し,その課題に対して生徒が作成した意見文や説明文を評価するシートが作成されていた。多くは学習の振り返りなど個人内評価の観点で示されていたが,教師側が生徒の活動の成果をどう評価するか,その基準について事例を増やすべきだと感じた。
今後の取り組みとしては,毎年数多くの実践が行われているために,その蓄積と共有ができれば,様々なタイプの実践にあった評価の判断基準を比較的容易に作成することができ,そこにかかる負担も大きく軽減させることができると考えられる。
3 おわりに
県中社研地理的分野の今後の研究の見通しとして,令和9年度全中社研佐賀大会の開催に向け,上記の課題の克服を意識しながら社会科地理学習の実践を蓄積していきたい。そして全国大会を意義あるものにするためには,研究の理論を具体化する実践の詳細が重要になる。そのため,県全体で研究方針に関するイメージを共有し,これまでの県中社研が積み重ねてきた実践研究を土台としたうえで,社会科の実践を構想する必要がある。地理的分野においても, 子どもが現実社会の諸課題に目を向け,望ましい社会の在り方について自己の主張を形成することができる授業実践を積み重ねることにより,社会に開かれた社会科地理学習の在り方を模索していきたい。
[i] 山岡 貴秀「『社会に開かれた中学校社会科の学びをめざして』~学びのSTEAM化と学びの個別最適化を柱として~」令和5年度佐賀県中学校社会科研究会理事会資料
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