直楠(あだいくす)
入力日
2019年10月6日
内容
応神天皇の頃の昔々の話である。
弟の甘美真手命(あましうちのすくね※異母兄弟)は、兄の武内宿禰(たけしうちのすくね)をおとしいれようと悪いことを考えていた。そしてある日、天皇に、
「兄は、天下をとるため朝廷を倒そうとしています。そのためにたくさんの兵を集めて九州から攻めようとしています。」
と根も葉もないことを申し上げた。天皇は怒って武内宿禰を捕えるために兵を九州に送った。
武内宿禰は、今まで朝廷の為に一生懸命つくしてきた。それなのに、無実の罪で捕まるのは残念でならなかった。弟が言っていることがウソであることを分かってもらいたいが、今となってはどうにもならない。そこで壱岐の国に逃げていった。
この壱岐の国には、武内宿禰とうり二つと言われるほどよく似た直(あだい)という若者がいた。武内宿禰は、直に、この島に逃げてきた訳を話した。直は、
「では、私があなたに代わってその罪をお受けしましょう。」
と言って自分から名乗り出て追っ手に捕まった。
直を壱岐の国から都へ連れて行く途中、石崎(中島公民分館近く)というところで一休みすることにした。そこには、大きな楠があり、一行はその下で腰を下ろして休んだ。 直は、(もし私がこのまま都へ連れて行かれて武内宿禰でないことがわかれば、また追っ手は武内宿禰を探し出してしまうに違いない)と思った。(それなら私は何の為にこんなことをしたのか分からない。もし、私がここで死んでしまったら、私の首だけが都に持っていかれ、私が武内宿禰でないことも分からずに済むであろう)と考えた。そして、追っ手に、
「私は、都へ行ったら、どうせすぐ殺されてしまう罪人です。それなら、千里の道を歩いて行って苦労することもありますまい。」
と言って、その場で自害してしまった。
この話は、村中に広まり、この大きな楠を「直楠(あだいくす)」と言うようになった。この楠は残っていないが、話だけが伝わっている。
~「大町町の伝説」 島ノ江 寛 著 1998 協文社印刷
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